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チケットを求めて。2008年、真夏の北京(中編)

メインスタジアム、北京国家体育場は、「近寄ることも有料」と、宿の女主人から聞いていた。大会の目玉の一つでもあった『鳥の巣』を目の当たりにすることはあきらめ、野球競技観戦へ照準を絞る。

宿では、日本人男性二人と同部屋となり、それぞれと五輪への想いなどを話した。年下の大学生の男性は既にサッカー日本代表のチケットを入手したと聞いた。自分も野球を観たいと伝えると、学生さんも野球好きらしく、しばらく野球談議に花が咲いた。もう一人の男性は、自身も水泳選手で鳴らしており、競泳を観に行くとのこと。自身がデザインしたという水泳キャップをプレゼントしてくれた。五輪とは別に、旅先での出会いを楽しんだひと時となる。

この2008年のオリンピックでは、いくつもの波乱が起きていた。日本を発つ直前、女子柔道競技では、大本命だった谷亮子が準決勝で敗れ、3大会連続での金メダル獲得はならなかった。また、中国陸上界最大のスーパースターであり、400mハードル世界王者だった劉翔は怪我を押しての出場だったが、スタートラインに立つも、そのまま棄権という信じられない結末を迎える。後から知ったが、劉翔が棄権した翌日には、その姿が載っている看板を街中から一つ残らず、全て取り外したのだという。現地滞在中の話だったが、そんな出来事にはまるで気付くことはなかった。

滞在3日目、いよいよ、チケット獲得へと動き出す。

お昼頃、バスを乗り継ぎ、野球会場である五課松球技場へと辿り着くと、女主人のレクチャー通りに事を進める。ノートの半紙を貼り合わせ、そこにサインペンで「我欲棒球、券」だったか、観戦チケットを求める旨のメッセージを書き、胸の高さに掲げ、会場への通路の脇に立ってみた。思っていた以上に多くの人々の視線を浴びる。中には、目の前まで近寄られ、紙に書いてある文を読み上げ、立ち去る人もいた。8月の中国、北京の猛烈な暑さの中、五輪会場においてチケットを求め、様々な国の人間から視線を向けられるという、日本での日常生活ではまず味わうことのない、不思議な感覚に覆われていた。

すると、鮮やかな水色と白のデザインのシャツに身を包んだ、女性が近づいてきた。この滞在期間中、北京市内のいたるところで何度も目にしてきた服装、今大会のボランティアだった。

その時の状況は、誰がみても、その行為が正規ルートでのチケット購入ではないことは明らか。すぐに立ち去るよう、注意、警告を受けるのだと、容易に想像が出来た。もちろん、周囲を見渡すと、チケットの売買が行われている様子もちらほら見られ、一斉に取り締まりが始まったものと思ったのだった。万事休す、もはやこれまでかと、一気に緊張が高まった。(佐藤文孝)

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